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日記というか週記というか気まぐれ記というか。
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赤くてまあるい花が咲いたよ
ちいさな光を抱きしめながら
赤くてまあるい花が咲いたよ
なんでもない歌を歌いながら

どこかで聞いた
誰かの声が
わたしの耳にこだまする

その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?

青くてまあるい空に咲いたよ
風とたびするひつじのくもが
青くてまあるい空に咲いたよ
うたをうたったちいさな花が

誰も知らない
誰かの声が
わたしの耳にこだまする

その空をうばったのは誰?
その空をうばったのは誰?
その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?

誰にも通じない
孤独な言葉が
誰でも知ってる歌を歌う

その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?

その花を手折ったのは誰?
その花を手折ったのは誰?
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 例えば、この透明な世界で、きみが感じたこと。
 それはすべて、きみの自分勝手・ひとりよがり・たった一人の孤独な印象、にしかならないのです。
 なぜならば、この世界で、きみはたった独りなのだから。
 きみに代わる他のものなんて、どこにも居はしないのだから。
 だけど、
 その自分勝手・ひとりよがり・たった一人の孤独な印象を、この世界の、自分以外の違う独りが、感じてくれて・共有してくれて・嬉しそうに笑ってくれたなら。
 それはとても素適なことで、とても幸せなことだと、思うのです。

 ただし、これもすべて、わたしの自分勝手・ひとりよがり・たった一人の孤独な想像、なので。
 本当のところは、わかりません。

 旅は、まだまだ続きます。


 夜のように、深い。深い、緑だ。足元が覚束無いような深緑の名前は、森と言う。
 森の中を、誰かが歩いている。長い髪をふわりとなびかせて、迷うこと無く歩き続けている。白く細い足首が緑を掻き分けながら、どこまでも、どこまでも歩いていく。
 朝のように、透きとおった。そんな泉だ。森という名前の深緑の奥には、とても言葉には表せないほどに美しく透きとおる水がある。
 森の中を、誰かが歩いている。迷いの無い足取りで、色の無い水の中へ向かって、どこまでも、どこまでも歩いていく。
 歩きながら、何か言っている。知らない声で、ささやいている。耳元で、誰かが喋る。

 それは、遠い過去に、置き去りにした―――……。

 『―――あなたも……わたしを……否定……するの……?』



 今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼にはわからない。ただ、一つだけ、彼にはわかることがあった。自分は今、水の中にいるということだ。
 もう冷たさは感じない。彼はもう随分と長い間ここにいるからだ。ひんやりとした感覚はあるけれど、刺すような痛みはどこにも無い。水にたゆたう心地良い浮遊感が意識を眠りに誘うけれど、彼はけっして眠りに落ちない。だけど頭はぼんやりとはっきりしない。指先も足も自分では動かせず、そして彼は考えることもない。いつからここにいるのか、終わりがあるのかないのかも、彼にはわからない。
 水の中から見る景色は、例外無く全てが綺麗だった。朝露が落ちて広がる波紋。真昼の蒼穹の抜けるような透明感。滲む視界に届く星の瞬き。面(おもて)に落ちる花の儚さ、射す陽光の激しさ、歪む月の白さ、そして、白銀色の雪の健気なかたち。何度も何度も繰り返し、景色は巡ってゆくけれど、どうして終わりは無いのだろう。今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼には何もわからない。ただ、自分の今いる場所が、水の中であるということだけ。

 気が遠くなるほど遠い昔、罪を犯したものは永遠を与えられるのだと誰かが言っていた。永遠とは何だろう。終わりが無いとは何だろう。終わりの無い永遠を経験したものはいないから、彼に答えを与えられるものはない。永遠を経験することなど、出来るわけが無い。それには一度、永遠を終わらせなければならないから。だけど永遠には終わりが無いから、やっぱり、答えは見つからない。

 誰かの声が近くを通り過ぎるたび、心をかすめる僅かな疼きを一体何を言うのだろう。手を伸ばしたくても動かせなくて、声を出したくても届かない。誰も気づかなくても、彼は水の中にいる。水の中から巡る景色を見つめ続けて、そして。

 美しい景色は今も変わりなく、そこにある。
 美しい景色と同じくらい美しい彼も、また、そこに。
 すべては、その純粋が過ぎる美貌ゆえに。
 いつまでも、いつまでも。



 その国には王がいて、王妃がいて、そしてまだ幼い王女がいたらしい。
 過去形なのは、今はもういないからだ。否、正確には、今、正にいなくなろうとしている、だろうか。現在アルシオの目の前には、真っ赤な炎に包まれた王城がある。強固な鉄の城壁と城門は反乱軍の剣や弓を守っても、城そのものを狙った炎を守ってはくれなかったらしい。光の無い夜の闇の中、轟音をたてて燃え、揺らめく炎は、アルシオにはむしろ美しく見えた。何かを暖めるためではなく、何かを燃やすためでもなく、ただ、城の中にいる王と王妃を焼くためだけにともされた火は、たくさんの人間の命の色を吸い取りながら、どこまでも、どこまでも高くのぼっていく。
 騎士や従者や小間使いが城から這い出てきても、城門に阻まれて出られない。何の意味があったのか知らないが、この城門を開ける仕掛けは、城の中にあるらしい。だからここまで逃げてきても、この場で城門は開けられないのだ。力ずくで開けようとも、後ろから炎に迫られている状態では、誰も正常な思考を持てなかった。ただ一人を除いては。
「城門の仕掛けはね、お母様が壊したのよ。みーんな道連れにしてやるーっ、って」
 今、アルシオの隣には、一人の少女がいる。背の低い少女は、冷徹に、残酷に、それでいてとても愛らしく笑いながら、逃げ惑う人々をずっと見ている。
「反乱軍がいるのは、お父様のせいなの。恐怖政治なんて、今時流行らないのにね」
 少女の声は続く。頭の中に、潔く焼けて死んでゆく王と王妃を描いているのだろうか。一体何を考えているのか、少年の知識では、理解できても納得できない。……もっとも、納得など、元からする気も無いのだけれど。
「火をつけたのは、わたしよ。……ふふ、大成功ね」
 そんなことを、どうして自分に言うのだろう。彼はたまたま通りがかったこの場所で、たまたま現状を目撃しただけだ。彼が知っていたのは、この国には王と王妃と、そしてまた幼い王妃がいたことだけだ。いる、といた、の境界線はいつ敷かれるのか。本当はそんなことには、興味のかけらもありはしない。
「死ぬ前に、誰かに言っておきたかったのよ。たまたまそこに、キミが通りがかっただけよ。
 そうよ、わたしは死ぬの。こんなに小さいのに。お父様とお母様のせいで。絶対許さないわ。だから、みんなと一緒に、わたしは死ぬの。そうね、道連れにするのは、わたしの方かもね。反乱軍がいるのも、ほんとうはわたしのせいだわ。だってお父様は、わたしのために、くだらない政治をしていたんだもの」
 アルシオの返事は待たず、少女は勝手に喋り続ける。どうでもいい。早く終わってほしい。少年には行くべきところがあり、追いかけるものがあり、だから少女の行く末などどうでもいい。
「……面白い人ね。そこまで無関心になれれば、こんなことにはならなかったかな……」
 少年は何も言わず、槍を背中にかけ直して歩き出す。
 ……くだらない。
「さようなら」
 少女は走り出す。炎に向かい、ドレスの裾をなびかせて。髪にうつりこんだ炎の揺らめきを美しいと感じたけれど、そんなものはいつか記憶の一部になるだけで、特別なことでは無いから。

 まだ逃げていない。この国は自分の与り知らない事情で、勝手に滅びていくだけだ。

 先を急ごう。



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