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日記というか週記というか気まぐれ記というか。
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 今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼にはわからない。ただ、一つだけ、彼にはわかることがあった。自分は今、水の中にいるということだ。
 もう冷たさは感じない。彼はもう随分と長い間ここにいるからだ。ひんやりとした感覚はあるけれど、刺すような痛みはどこにも無い。水にたゆたう心地良い浮遊感が意識を眠りに誘うけれど、彼はけっして眠りに落ちない。だけど頭はぼんやりとはっきりしない。指先も足も自分では動かせず、そして彼は考えることもない。いつからここにいるのか、終わりがあるのかないのかも、彼にはわからない。
 水の中から見る景色は、例外無く全てが綺麗だった。朝露が落ちて広がる波紋。真昼の蒼穹の抜けるような透明感。滲む視界に届く星の瞬き。面(おもて)に落ちる花の儚さ、射す陽光の激しさ、歪む月の白さ、そして、白銀色の雪の健気なかたち。何度も何度も繰り返し、景色は巡ってゆくけれど、どうして終わりは無いのだろう。今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼には何もわからない。ただ、自分の今いる場所が、水の中であるということだけ。

 気が遠くなるほど遠い昔、罪を犯したものは永遠を与えられるのだと誰かが言っていた。永遠とは何だろう。終わりが無いとは何だろう。終わりの無い永遠を経験したものはいないから、彼に答えを与えられるものはない。永遠を経験することなど、出来るわけが無い。それには一度、永遠を終わらせなければならないから。だけど永遠には終わりが無いから、やっぱり、答えは見つからない。

 誰かの声が近くを通り過ぎるたび、心をかすめる僅かな疼きを一体何を言うのだろう。手を伸ばしたくても動かせなくて、声を出したくても届かない。誰も気づかなくても、彼は水の中にいる。水の中から巡る景色を見つめ続けて、そして。

 美しい景色は今も変わりなく、そこにある。
 美しい景色と同じくらい美しい彼も、また、そこに。
 すべては、その純粋が過ぎる美貌ゆえに。
 いつまでも、いつまでも。

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