忍者ブログ
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新コメント
最新記事
プロフィール
HN:
白銀水也
HP:
性別:
女性
自己紹介:
小説とか絵とか音楽とか、
好きなことやってます。
お暇でしたらサイトの方にも
足を運んで下さればと。
ブログ内検索
忍者ブログ | [PR]
日記というか週記というか気まぐれ記というか。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



 その国には王がいて、王妃がいて、そしてまだ幼い王女がいたらしい。
 過去形なのは、今はもういないからだ。否、正確には、今、正にいなくなろうとしている、だろうか。現在アルシオの目の前には、真っ赤な炎に包まれた王城がある。強固な鉄の城壁と城門は反乱軍の剣や弓を守っても、城そのものを狙った炎を守ってはくれなかったらしい。光の無い夜の闇の中、轟音をたてて燃え、揺らめく炎は、アルシオにはむしろ美しく見えた。何かを暖めるためではなく、何かを燃やすためでもなく、ただ、城の中にいる王と王妃を焼くためだけにともされた火は、たくさんの人間の命の色を吸い取りながら、どこまでも、どこまでも高くのぼっていく。
 騎士や従者や小間使いが城から這い出てきても、城門に阻まれて出られない。何の意味があったのか知らないが、この城門を開ける仕掛けは、城の中にあるらしい。だからここまで逃げてきても、この場で城門は開けられないのだ。力ずくで開けようとも、後ろから炎に迫られている状態では、誰も正常な思考を持てなかった。ただ一人を除いては。
「城門の仕掛けはね、お母様が壊したのよ。みーんな道連れにしてやるーっ、って」
 今、アルシオの隣には、一人の少女がいる。背の低い少女は、冷徹に、残酷に、それでいてとても愛らしく笑いながら、逃げ惑う人々をずっと見ている。
「反乱軍がいるのは、お父様のせいなの。恐怖政治なんて、今時流行らないのにね」
 少女の声は続く。頭の中に、潔く焼けて死んでゆく王と王妃を描いているのだろうか。一体何を考えているのか、少年の知識では、理解できても納得できない。……もっとも、納得など、元からする気も無いのだけれど。
「火をつけたのは、わたしよ。……ふふ、大成功ね」
 そんなことを、どうして自分に言うのだろう。彼はたまたま通りがかったこの場所で、たまたま現状を目撃しただけだ。彼が知っていたのは、この国には王と王妃と、そしてまた幼い王妃がいたことだけだ。いる、といた、の境界線はいつ敷かれるのか。本当はそんなことには、興味のかけらもありはしない。
「死ぬ前に、誰かに言っておきたかったのよ。たまたまそこに、キミが通りがかっただけよ。
 そうよ、わたしは死ぬの。こんなに小さいのに。お父様とお母様のせいで。絶対許さないわ。だから、みんなと一緒に、わたしは死ぬの。そうね、道連れにするのは、わたしの方かもね。反乱軍がいるのも、ほんとうはわたしのせいだわ。だってお父様は、わたしのために、くだらない政治をしていたんだもの」
 アルシオの返事は待たず、少女は勝手に喋り続ける。どうでもいい。早く終わってほしい。少年には行くべきところがあり、追いかけるものがあり、だから少女の行く末などどうでもいい。
「……面白い人ね。そこまで無関心になれれば、こんなことにはならなかったかな……」
 少年は何も言わず、槍を背中にかけ直して歩き出す。
 ……くだらない。
「さようなら」
 少女は走り出す。炎に向かい、ドレスの裾をなびかせて。髪にうつりこんだ炎の揺らめきを美しいと感じたけれど、そんなものはいつか記憶の一部になるだけで、特別なことでは無いから。

 まだ逃げていない。この国は自分の与り知らない事情で、勝手に滅びていくだけだ。

 先を急ごう。
PR


この記事にコメントする
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS:
この記事へのトラックバック
トラックバックURL:

Powered by 忍者ブログ  Design by まめの
Copyright c [ DIARY ] All Rights Reserved.
http://silversnowos.blog.shinobi.jp/