さて、ここはどこだろうと辺りを見渡して、少年は一度目の溜息を吐いた。
どうやら人に必要なだけの知識は持っているらしいが、少年にはここがどこだかわからなかった。それもそのはずだ。少年は今、少年が生まれた世界とはもう違う世界にいたのだから。普通ならば歩くことも、その存在を断定することすら出来ないであろう「違う世界」のことなんか、知識として持たされるはずがない。けれど自分は普通ではないのだから、それくらいの知識くらい持たせてくれてもいいのにと、少年はもう遠く届かない彼女に思いを馳せた。そして少年は、再び辺りに視線をめぐらせる。
雨、赤く黒ずんだ大地、鉄のにおいと、屍、屍、屍。耳を澄ましてみても、命の気配は一つとて感じない。するとつまり、ここはもう既に消滅を待つだけの世界なのだろうか。彼の剣によって滅ぼされた。ということは無駄足だったのだ。それなら知識なんか得る必要は無かったのだなと、少年は二度目の溜息を吐いた。
冷たい雨が降りしきる中、連なる屍の中でふいに何かが光る。首を傾げてそちらへ向かえば、そこには白に輝く一振りの槍があった。これだけの闇の中で一切の汚れを持たずにいる様は不思議ではあったが、その槍は少年の金色の瞳に、尋常ならざる強烈な印象を見せた。
手のひらでそれを掴み、ふ、と振り下ろす。
これが運命かと楽しそうに笑って、少年は三度目の溜息を吐いた。
少年は地を蹴り、ありがとう、と呟いて始まりを迎える。
アルシオがいなくなった世界には、ただ、雨だけが降っていた。
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