はい、こんにちは、はじめまして、オハヨウゴザイマス。
これだけ言えば充分かしら? ……何? 何か足りてないって? 別にいいのよそんなこと。細かいことを気にしていると恋人の一人や二人や百人だって出来ないわよ。百人も出来るか? ところが出来る人がいるから人っていうのはスゴイのよ。ああもう、そういう話をしたいんじゃないわ!
私の言いたいことはわかっているわね? わからない? だったら感じなさい、違うわ、言葉じゃなくて心で感じるのよ! 無理だって? 説明しろって? その時間がもったいないから挨拶だって省略しているんじゃない。鈍感な男は嫌われるわよ。人と人とが完全に別個体である以上、人なんか皆、鈍感なんだけど。相手の気持ちがわからない、っていう当たり前のことを勝手に鈍感と名づけるんだったら。
さっきから何を気にしているの? ……百人の恋人をつくる方法? 馬鹿ね、簡単よ。一夜限りの恋人っていうものが、人にはあったのよ。それを繰り返してごらんなさい、一年は三百日だから、一年経てば自動的に三百人よ。すごいわね。これで気が済んだかしら? 一年が三十日だったら、四年繰り返せば百二十人よ。人がはかった時の長さなんて、誕生日が無ければそう大したことでも無いのよ。
まだ何か気になるの? ……私の言いたいこと? だから、わかるでしょう。何の為に、私は貴方とこうして話をしていると思っているの。私は彼には一切手が届かないから、貴方に無理矢理押しつけるしかないのよ。私だって彼を追いかけたいけれど、その為に彼以上の存在になるなんて御免だわ。だから、貴方に無理矢理押しつけるのよ。迷惑だって知っていても。
そうよ、貴方はわかっているはずよ。だって貴方は、私の手で、私の命の灯火を分けて、私がつくった最後の命なのだもの。彼に滅ぼされた世界の中で、私がつくれたものは、たった一つの命だったから。いずれ最後の命である貴方が飛び立てば、この世界は完全に消えて無くなることでしょう。だけど貴方はそんなことは負い目にしなくていいわ。彼に滅ぼされた世界の中で、最後に芽吹かせた命なのだから。
わかるわね、貴方はこれからたった一人で、長い長い旅を始めなくてはならないわ。あの死神はあろうことか背中に翼を得てしまって、次々世界を滅ぼしている。だから貴方に全部話すのよ。滅ぼされた世界に生まれた命だけが、彼を止められるのだから。
これから貴方が貴方の足で築く旅路に比べれば、生まれてきた意味なんか全然大したことないわ。だからやりたくなければやめてもいいし、だからって貴方を消したりしない。だって貴方は人なんだから。だけど貴方の旅路にはきっと、ある一つの名前がつきまとうことでしょう。そしてその名前を知るにも、排除するにも、きっとこれからの旅路が必要になることでしょう。彼もまた、その名前のために、旅路を築いているのだから。
さあ、おしゃべりが過ぎたわ。せっかく言葉を持っているのだから、喋らなければ損だもの。自分が持たされたものは、全て自分の為に有効活用するべきだわ。その為に持たされたものなのだから。……ああ、またしゃべってしまっているわね。さあ、行きなさい。まだ何か気になるの?
私?
私は駄目よ。私が歌えば命が生まれるけれど、私が歩けば命が死んでしまうわ。有効に活用する方法が見当たらないわね、これに限っては。後は完璧なんだけど。顔も性格も。だから私は見ているだけ。姿が無くても返事が無くても、いつだって貴方を見ているわ。信じられなきゃ信じなくてもいいわよ。どうせこんなこと言ってみても、人は姿が見えない私のことなんか、信じようとはしないから。
さあ、最後に一つだけ。
貴方の名前は、 アルシオ。
重要な意味なんか一つも無いわ。名前があるなら、意味なんてどうでもいいでしょう。細かいことなんか気にしなくていいのよ。
貴方も、彼も。
行ってらっしゃい。ごめんなさい。
さようなら。
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