例えば彼のように、この背中に翼があるのなら、とても遠くまで飛んでいけるのだろう。だけどそれは、この足で行けないところへも行けるようになるということだ。とても遠くまで行ける代わりに、行けるところが際限無く大きくなる。それは俺にとって、不幸ではないだろうか。だって俺は、早くこの旅路に終わりがくればいいと思っているのだから。
しかしこの大きな世界は広く眩しく、たとえば海の向こうに果てがあるのかを確かめたくなる時がある。真っ直ぐにひとりきりで飛んでいく鳥に並んで、世界の小ささを見たくなる。こんな思いからしてみれば、背中に翼の無い俺は不幸だということになるのだろう。願いが叶えば幸福、叶わなければ不幸、だなんて、そんなに簡単なものではないのだろうが。
どのみち叶わないことだ。この背中に翼は無いし、かといって行けないところが無いわけでもない。この身体はこの意思が望むところのどこへでも行ける。たくさんのものを置き去りに、たくさんのものを素通りして。
夕焼け空が綺麗だった。世界が炎に呑まれ、焼かれ滅んでいくようだ。
明日もきっといい天気だ。
だから明日は羽を休めて、ちょっと海まで出掛けよう。今の季節では寒いだろうが、身体を濡らさなければ平気だろう。
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