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日記というか週記というか気まぐれ記というか。
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 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が在ると知っていたなら、こんな決意はしなかったのに。
 追いかけようなどと、思わなかったのに。

 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が待っていたのなら、こんな決意は必要無かったのに。
 不必要な名前など、知らなくてよかったのに。

 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が定められていたのなら、こんな決意は破棄できたのに。
 もっと楽な方法が、あったのに。

 背中の翼を、真っ白い腕を、折れそうな程にか弱い足首を、この手で真紅に染め上げて。



 けっして私の手から、逃がしはしなかったのに。
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 例えば彼のように、この背中に翼があるのなら、とても遠くまで飛んでいけるのだろう。だけどそれは、この足で行けないところへも行けるようになるということだ。とても遠くまで行ける代わりに、行けるところが際限無く大きくなる。それは俺にとって、不幸ではないだろうか。だって俺は、早くこの旅路に終わりがくればいいと思っているのだから。
 しかしこの大きな世界は広く眩しく、たとえば海の向こうに果てがあるのかを確かめたくなる時がある。真っ直ぐにひとりきりで飛んでいく鳥に並んで、世界の小ささを見たくなる。こんな思いからしてみれば、背中に翼の無い俺は不幸だということになるのだろう。願いが叶えば幸福、叶わなければ不幸、だなんて、そんなに簡単なものではないのだろうが。
 どのみち叶わないことだ。この背中に翼は無いし、かといって行けないところが無いわけでもない。この身体はこの意思が望むところのどこへでも行ける。たくさんのものを置き去りに、たくさんのものを素通りして。

 夕焼け空が綺麗だった。世界が炎に呑まれ、焼かれ滅んでいくようだ。

 明日もきっといい天気だ。
 だから明日は羽を休めて、ちょっと海まで出掛けよう。今の季節では寒いだろうが、身体を濡らさなければ平気だろう。


 ああ、あれは一体何だったのだろう。
 わからないまま、私の世界は終わりを迎える。

 雨が降る冷たい戦場に、それは居た。黒に輝く剣をその手に携えて。銀色の瞳が、こちらを見ていた。雨が降る戦場よりも冷たい視線を持って。
 それを討伐するためだけに用意された戦場。正確な数がわからない程の軍馬、兵士、人間、武器。それは地面を一つ蹴り、私達の中に降り立った。雨に塗れた長い髪が空に舞う姿。長い前髪の隙間から覗いた、人のそれとは思えない程の美しさが閉じ込められた瞳。そして、

 後は一瞬だった。私が率いた者達が、一切の抵抗も許されず斬り捨てられてゆく。雨の中、鮮やかに舞い散る赤、紅、緋。鋭い痛み、鈍い痛み、端から流れ出ていく命の感覚。ともすれば断罪のような斬撃が、この世界を惨劇で満たしてゆく。それがこの世界に降り立ったその日から、青い空も、蒼い草原も、碧い海原も、全てが姿を消した。人という人、生き物という生き物、命という命、全てが。

 ああ、あれは一体何だったのだろう。
 わからないまま、私の世界は終わりを迎える。

 私はかつて、光の白騎士と呼ばれていた。白に輝く槍で魔を払い、この国の平和を取り返した。だけどそんなものも何もかも、今となってはもう無意味なもの。動かなくなる足、冷たくなる指先。地面に突き立てた私の相棒に口づけて、そして……。

 力が欲しい。
 世界を守れるだけの力が。
 そんなものがあれば、もう何もいらない。
 この命でさえも。

 命をかければ、どんな願いでも叶う、だなんて。
 そんなふうに、思っているわけではないけれど。



 さて、ここはどこだろうと辺りを見渡して、少年は一度目の溜息を吐いた。

 どうやら人に必要なだけの知識は持っているらしいが、少年にはここがどこだかわからなかった。それもそのはずだ。少年は今、少年が生まれた世界とはもう違う世界にいたのだから。普通ならば歩くことも、その存在を断定することすら出来ないであろう「違う世界」のことなんか、知識として持たされるはずがない。けれど自分は普通ではないのだから、それくらいの知識くらい持たせてくれてもいいのにと、少年はもう遠く届かない彼女に思いを馳せた。そして少年は、再び辺りに視線をめぐらせる。
 雨、赤く黒ずんだ大地、鉄のにおいと、屍、屍、屍。耳を澄ましてみても、命の気配は一つとて感じない。するとつまり、ここはもう既に消滅を待つだけの世界なのだろうか。彼の剣によって滅ぼされた。ということは無駄足だったのだ。それなら知識なんか得る必要は無かったのだなと、少年は二度目の溜息を吐いた。

 冷たい雨が降りしきる中、連なる屍の中でふいに何かが光る。首を傾げてそちらへ向かえば、そこには白に輝く一振りの槍があった。これだけの闇の中で一切の汚れを持たずにいる様は不思議ではあったが、その槍は少年の金色の瞳に、尋常ならざる強烈な印象を見せた。

 手のひらでそれを掴み、ふ、と振り下ろす。
 これが運命かと楽しそうに笑って、少年は三度目の溜息を吐いた。

 少年は地を蹴り、ありがとう、と呟いて始まりを迎える。

 アルシオがいなくなった世界には、ただ、雨だけが降っていた。


 はい、こんにちは、はじめまして、オハヨウゴザイマス。
 これだけ言えば充分かしら? ……何? 何か足りてないって? 別にいいのよそんなこと。細かいことを気にしていると恋人の一人や二人や百人だって出来ないわよ。百人も出来るか? ところが出来る人がいるから人っていうのはスゴイのよ。ああもう、そういう話をしたいんじゃないわ!
 私の言いたいことはわかっているわね? わからない? だったら感じなさい、違うわ、言葉じゃなくて心で感じるのよ! 無理だって? 説明しろって? その時間がもったいないから挨拶だって省略しているんじゃない。鈍感な男は嫌われるわよ。人と人とが完全に別個体である以上、人なんか皆、鈍感なんだけど。相手の気持ちがわからない、っていう当たり前のことを勝手に鈍感と名づけるんだったら。

 さっきから何を気にしているの? ……百人の恋人をつくる方法? 馬鹿ね、簡単よ。一夜限りの恋人っていうものが、人にはあったのよ。それを繰り返してごらんなさい、一年は三百日だから、一年経てば自動的に三百人よ。すごいわね。これで気が済んだかしら? 一年が三十日だったら、四年繰り返せば百二十人よ。人がはかった時の長さなんて、誕生日が無ければそう大したことでも無いのよ。

 まだ何か気になるの? ……私の言いたいこと? だから、わかるでしょう。何の為に、私は貴方とこうして話をしていると思っているの。私は彼には一切手が届かないから、貴方に無理矢理押しつけるしかないのよ。私だって彼を追いかけたいけれど、その為に彼以上の存在になるなんて御免だわ。だから、貴方に無理矢理押しつけるのよ。迷惑だって知っていても。

 そうよ、貴方はわかっているはずよ。だって貴方は、私の手で、私の命の灯火を分けて、私がつくった最後の命なのだもの。彼に滅ぼされた世界の中で、私がつくれたものは、たった一つの命だったから。いずれ最後の命である貴方が飛び立てば、この世界は完全に消えて無くなることでしょう。だけど貴方はそんなことは負い目にしなくていいわ。彼に滅ぼされた世界の中で、最後に芽吹かせた命なのだから。
 わかるわね、貴方はこれからたった一人で、長い長い旅を始めなくてはならないわ。あの死神はあろうことか背中に翼を得てしまって、次々世界を滅ぼしている。だから貴方に全部話すのよ。滅ぼされた世界に生まれた命だけが、彼を止められるのだから。

 これから貴方が貴方の足で築く旅路に比べれば、生まれてきた意味なんか全然大したことないわ。だからやりたくなければやめてもいいし、だからって貴方を消したりしない。だって貴方は人なんだから。だけど貴方の旅路にはきっと、ある一つの名前がつきまとうことでしょう。そしてその名前を知るにも、排除するにも、きっとこれからの旅路が必要になることでしょう。彼もまた、その名前のために、旅路を築いているのだから。

 さあ、おしゃべりが過ぎたわ。せっかく言葉を持っているのだから、喋らなければ損だもの。自分が持たされたものは、全て自分の為に有効活用するべきだわ。その為に持たされたものなのだから。……ああ、またしゃべってしまっているわね。さあ、行きなさい。まだ何か気になるの?

 私?
 私は駄目よ。私が歌えば命が生まれるけれど、私が歩けば命が死んでしまうわ。有効に活用する方法が見当たらないわね、これに限っては。後は完璧なんだけど。顔も性格も。だから私は見ているだけ。姿が無くても返事が無くても、いつだって貴方を見ているわ。信じられなきゃ信じなくてもいいわよ。どうせこんなこと言ってみても、人は姿が見えない私のことなんか、信じようとはしないから。

 さあ、最後に一つだけ。
 貴方の名前は、 アルシオ。

 重要な意味なんか一つも無いわ。名前があるなら、意味なんてどうでもいいでしょう。細かいことなんか気にしなくていいのよ。
 貴方も、彼も。

 行ってらっしゃい。ごめんなさい。


 さようなら。



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