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日記というか週記というか気まぐれ記というか。
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 今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼にはわからない。ただ、一つだけ、彼にはわかることがあった。自分は今、水の中にいるということだ。
 もう冷たさは感じない。彼はもう随分と長い間ここにいるからだ。ひんやりとした感覚はあるけれど、刺すような痛みはどこにも無い。水にたゆたう心地良い浮遊感が意識を眠りに誘うけれど、彼はけっして眠りに落ちない。だけど頭はぼんやりとはっきりしない。指先も足も自分では動かせず、そして彼は考えることもない。いつからここにいるのか、終わりがあるのかないのかも、彼にはわからない。
 水の中から見る景色は、例外無く全てが綺麗だった。朝露が落ちて広がる波紋。真昼の蒼穹の抜けるような透明感。滲む視界に届く星の瞬き。面(おもて)に落ちる花の儚さ、射す陽光の激しさ、歪む月の白さ、そして、白銀色の雪の健気なかたち。何度も何度も繰り返し、景色は巡ってゆくけれど、どうして終わりは無いのだろう。今は一体いつなのか、自分は一体何者なのか、彼には何もわからない。ただ、自分の今いる場所が、水の中であるということだけ。

 気が遠くなるほど遠い昔、罪を犯したものは永遠を与えられるのだと誰かが言っていた。永遠とは何だろう。終わりが無いとは何だろう。終わりの無い永遠を経験したものはいないから、彼に答えを与えられるものはない。永遠を経験することなど、出来るわけが無い。それには一度、永遠を終わらせなければならないから。だけど永遠には終わりが無いから、やっぱり、答えは見つからない。

 誰かの声が近くを通り過ぎるたび、心をかすめる僅かな疼きを一体何を言うのだろう。手を伸ばしたくても動かせなくて、声を出したくても届かない。誰も気づかなくても、彼は水の中にいる。水の中から巡る景色を見つめ続けて、そして。

 美しい景色は今も変わりなく、そこにある。
 美しい景色と同じくらい美しい彼も、また、そこに。
 すべては、その純粋が過ぎる美貌ゆえに。
 いつまでも、いつまでも。

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 その国には王がいて、王妃がいて、そしてまだ幼い王女がいたらしい。
 過去形なのは、今はもういないからだ。否、正確には、今、正にいなくなろうとしている、だろうか。現在アルシオの目の前には、真っ赤な炎に包まれた王城がある。強固な鉄の城壁と城門は反乱軍の剣や弓を守っても、城そのものを狙った炎を守ってはくれなかったらしい。光の無い夜の闇の中、轟音をたてて燃え、揺らめく炎は、アルシオにはむしろ美しく見えた。何かを暖めるためではなく、何かを燃やすためでもなく、ただ、城の中にいる王と王妃を焼くためだけにともされた火は、たくさんの人間の命の色を吸い取りながら、どこまでも、どこまでも高くのぼっていく。
 騎士や従者や小間使いが城から這い出てきても、城門に阻まれて出られない。何の意味があったのか知らないが、この城門を開ける仕掛けは、城の中にあるらしい。だからここまで逃げてきても、この場で城門は開けられないのだ。力ずくで開けようとも、後ろから炎に迫られている状態では、誰も正常な思考を持てなかった。ただ一人を除いては。
「城門の仕掛けはね、お母様が壊したのよ。みーんな道連れにしてやるーっ、って」
 今、アルシオの隣には、一人の少女がいる。背の低い少女は、冷徹に、残酷に、それでいてとても愛らしく笑いながら、逃げ惑う人々をずっと見ている。
「反乱軍がいるのは、お父様のせいなの。恐怖政治なんて、今時流行らないのにね」
 少女の声は続く。頭の中に、潔く焼けて死んでゆく王と王妃を描いているのだろうか。一体何を考えているのか、少年の知識では、理解できても納得できない。……もっとも、納得など、元からする気も無いのだけれど。
「火をつけたのは、わたしよ。……ふふ、大成功ね」
 そんなことを、どうして自分に言うのだろう。彼はたまたま通りがかったこの場所で、たまたま現状を目撃しただけだ。彼が知っていたのは、この国には王と王妃と、そしてまた幼い王妃がいたことだけだ。いる、といた、の境界線はいつ敷かれるのか。本当はそんなことには、興味のかけらもありはしない。
「死ぬ前に、誰かに言っておきたかったのよ。たまたまそこに、キミが通りがかっただけよ。
 そうよ、わたしは死ぬの。こんなに小さいのに。お父様とお母様のせいで。絶対許さないわ。だから、みんなと一緒に、わたしは死ぬの。そうね、道連れにするのは、わたしの方かもね。反乱軍がいるのも、ほんとうはわたしのせいだわ。だってお父様は、わたしのために、くだらない政治をしていたんだもの」
 アルシオの返事は待たず、少女は勝手に喋り続ける。どうでもいい。早く終わってほしい。少年には行くべきところがあり、追いかけるものがあり、だから少女の行く末などどうでもいい。
「……面白い人ね。そこまで無関心になれれば、こんなことにはならなかったかな……」
 少年は何も言わず、槍を背中にかけ直して歩き出す。
 ……くだらない。
「さようなら」
 少女は走り出す。炎に向かい、ドレスの裾をなびかせて。髪にうつりこんだ炎の揺らめきを美しいと感じたけれど、そんなものはいつか記憶の一部になるだけで、特別なことでは無いから。

 まだ逃げていない。この国は自分の与り知らない事情で、勝手に滅びていくだけだ。

 先を急ごう。


 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が在ると知っていたなら、こんな決意はしなかったのに。
 追いかけようなどと、思わなかったのに。

 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が待っていたのなら、こんな決意は必要無かったのに。
 不必要な名前など、知らなくてよかったのに。

 ああ、神様。
 どうして私はあなたと愛し合うことが出来ないのでしょうか。
 こんな運命が定められていたのなら、こんな決意は破棄できたのに。
 もっと楽な方法が、あったのに。

 背中の翼を、真っ白い腕を、折れそうな程にか弱い足首を、この手で真紅に染め上げて。



 けっして私の手から、逃がしはしなかったのに。


 例えば彼のように、この背中に翼があるのなら、とても遠くまで飛んでいけるのだろう。だけどそれは、この足で行けないところへも行けるようになるということだ。とても遠くまで行ける代わりに、行けるところが際限無く大きくなる。それは俺にとって、不幸ではないだろうか。だって俺は、早くこの旅路に終わりがくればいいと思っているのだから。
 しかしこの大きな世界は広く眩しく、たとえば海の向こうに果てがあるのかを確かめたくなる時がある。真っ直ぐにひとりきりで飛んでいく鳥に並んで、世界の小ささを見たくなる。こんな思いからしてみれば、背中に翼の無い俺は不幸だということになるのだろう。願いが叶えば幸福、叶わなければ不幸、だなんて、そんなに簡単なものではないのだろうが。
 どのみち叶わないことだ。この背中に翼は無いし、かといって行けないところが無いわけでもない。この身体はこの意思が望むところのどこへでも行ける。たくさんのものを置き去りに、たくさんのものを素通りして。

 夕焼け空が綺麗だった。世界が炎に呑まれ、焼かれ滅んでいくようだ。

 明日もきっといい天気だ。
 だから明日は羽を休めて、ちょっと海まで出掛けよう。今の季節では寒いだろうが、身体を濡らさなければ平気だろう。


 言うまでも無く私はその辺を見渡せば一億人はいるんじゃないかというごくごく普通の小娘なので、毎日変わったことがあるのかというとそういうわけではなく、だから普通に日記を書くより、ささっと書けて、読めてしまうような突発的な小話を書く方が楽と言えば楽なんですな。なんとなく続き物っぽくなっているみたいですが、細かいことは一切決めておらず、書いている途中で「あ、こうしよう」と決定している始末です。でも正直、こういう地に足がつかないような話の方が、設定とか多少無視できるんで気楽ではある。

 最近、旅ナントカーのタイトルが続いた理由です。言い訳っていうか。



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